大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和60年(行ツ)180号 判決

宮崎県西臼杵郡高千穂町大字三田井一二六五番地の五

上告人

伊藤イエノ

宮崎県延岡市東本小路一一二番地の一

被上告人

延岡税務署長 宗永健作

右指定代理人

中本尚

宮崎県西臼杵郡高千穂町大字三田井一三番地

被上告人

高千穂町長 甲斐畩常

右当事者間の福岡高等裁判所宮崎支部昭和六〇年(行コ)第二号課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和六〇年八月九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

本件各訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断は、結論において正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大橋進 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一)

(昭和六〇年(行ツ)第一八〇号 上告人 伊藤イエノ)

上告人の上告理由

被上告人延岡税務署長は、答弁書で所得税は申告納税方式で私人の公法行為と述べられています。上告人も其の趣旨に基き、昭和五十六年三月十六日五十五年分を申告いたしました。はだかの利益を申告したのではありません。

非課税法五十八条

上告人は今迄居住していました家屋が老朽化して雨もりが厳しく、漏電の恐れも生じました為とりこわして、新らしく建築しました。其の資金返済が困難で(甲五号証1、2の通り)したので、他の私名義の土地を売却して同一目的に供しました。(居住用)。

其の資料としまして、売渡証明書と建築工事費明細書を提示して説明を求めましたら、住宅控除はある意思表示があればいいと云はれましたが、店の開築費一八〇万円水洗トイレ三九万円其の他三四〇万円(甲二号証〈3〉)の通り設備費自動車購入仕入用は圧縮記帳でくりのべ減価消却法で非課税にされましたが、同一家屋の工事費は増築工事として必要経費には認めてもらえませんでした。税務署では、土地係、事業係と具体化されて受付が別々であっちへ行ったりこっちへきたりして大勢の申告者で大へんでした。

上告人の取得費(土地)は、一六〇坪保有期間雑費共一六〇万円売却費は七〇〇万円で仲介料は二〇万円で利益は五二〇万円になりますけれど、住宅工事費三四〇万円店の工事費一八〇万円水洗トイレ三九万円 合計五五九万円其の他甲二号証〈3〉の通り設備費(店)も沢山いりましたので、福祉課(県)から一二〇万円お借りしました。甲五号証〈1〉の通りです。現在返却中です。六十三年三月まで上告人は主人亡き後を第三人生のスタートにして年金で細々と郵便ポストを目玉にして、(切手を売らしてもらっています)やりくりしながら小さな店を余生として残された人生を精いっぱい大事にしようと思ひました。

生存権二十五条

人間が生きていくためには、生活の面においても生活力を生産するためにも、必要経費はかかせない資源です。健康で文化的生活を営む国民共通の利益は保障されていますのに(生活保護法)、納得できません。

上告人が長い年月を要して(六十年)やっと求め得た住居のやすらぎもよろこびも国の経費におきかへられて後から徴収されたらみじめです。

甲一号証 住宅控除三五〇万円、事業主控除二二〇万円、借金返済困難非課税は税務署長さんも町長さんも認められています。

上告人は老令者母子家庭低所得者です。

一三六万二〇〇〇円の国税賦課は生存権をこえた酷税です。途方にくれました。生活の不安、健康も害して夜もねむれずにたうたう病床に伏す事となって幾月かすぎました。

それでも子供の母故に精いっぱい頑張らなくては生きなければならないと努力しています。

税務署さんが国の経費として徴税に熱心で厳しいのはわかりますが、それ以上に納税者は生産者です。

お金もうけることは大変です。労働でなくては得られません。病気になったら働けません。

仕事がみつからなかったら働くこともできません。

申告当時上告人はこんな高額税金は、はじき出されてもどうして納めたらいいですか。みんな借金です少さく、きりくずして下さい。

分納で一生かかって納めますと申立てました。何度も何度も足を運びました。其の度びに了承されました。其の場限りです。

署長さんに理解して頂かうと面会を求めましたが、いつも部長さんか課長さんで受とめられて、合せて下さいませんでした。

上告人は厳しい税金も義務だと受とめまして、どんな苦労しても苦しくても辛くても納税しなければと思ひまして、年金の前借りや借金を重ねて、当時交通事故に逢って足をいたがる孫の男の子を連れて、通院かたがた税金完納に行きました。五十八年五月十七日六十六万二〇〇〇円です。

税務署の建物がこと更硬く大きく見えました。帰りは財布が軽くて孫がほしがるおもちゃの自動車を買ってやれずにおこって泣かせて、汽車の中でひざの上にねむった顔は涙で黒くよごれていました。一生忘れられません。税金が鬼のように思はれました。

横断歩道まで見送って下さったやさしい税務署員さんの顔だけは深く印象的でした。

上告人が精いっぱいの努力と義務と誠意で完納した税金には延滞税も利子税も付記されていません。附属書類1領収証の通りです。

ところが五十九年一月二十日付けで延岡税務署長さんから延滞税一八万五四〇〇円利子税一万一〇〇円の納付書が送付されてきました。驚きました。

直ちに異議申立書を提出しましたら署長代理人が出張せられ本件内容について建築工事設計書図もお見せしてくわしく説明お話ししましたら、土地売却益は全部、住居資金、店の開店設備に供したことを確認されましたので、上告人が正しく申告されたことはよくわかりましたと申されましたので、借金税金の苦しかったこと、みじめさを告げ、人間が生きてゆけるための必要経費は全部控除して下さいと訴えました。

非課税五十八条です。

所得税は住宅の安定と生活力を生産するための必要経費を控除して残りの益には当然能力に応じた税の負担義務は尽すべきで之は常識です。上告人に送付された延帯税は、本税納付日をちぢめたりのばしたりして連動してはじき出された税金でした。不適当です。

被上告人 高千穂町長 累進課税

昭和五十五年分 上告人の町県民税は答弁書一枚裏六行目から九行目に表示されています。

非課税です。

ところが、上告人に高千穂町長さんは、累進課税を援用されて、昭和五十五年県町民税四十五万六四五〇円国民健康保険税最高頭のうち二十六万円賦課課税されました。国税を基にして同一物件に幾重にも重復して賦課税されました。自ら申告納税方式で私人の公法行為と主張されますが、上告人の申立書が不明です。税額の基礎となる要件事実が確認できません。申告納税法式に不適当です。又、上告人の能力もたしかめられずに非課税とわかっていながら納付書(税金)を上告人に出されることは納得できません。

本件内容については上告人は何度も異議申立はいたしました。当時は強要されませんでしたが、税務課長さんが厳しい人で上告人の立場を無視して累進課税を納税契約書に変更作成されて強税されました。老令者 母子家庭非課税者ということはわかっておられたのに、幾重にも重復して同一物件から賦課されることは納得できません。ひきょうです。

それは取立に厳しく二三日おきに上告人の家の前に(二一八号線)二台づつ車で押しかけて役場の公務員の人が入れかわりたちかわり店の中をぐるぐる廻って強税徴収されました。累進課税が身に食い入るように迫力を感じました。ないものを出せと云はれる位こまることはありません。それは上告人が老令で六十才をこえた未亡人が一生に一度のみじめな哀れな第三人生の余生の夢がくずれた一瞬でした。

こんな不公平がなくならない限り公共の福祉はないと思ひます。

公権力を行使される国家公務員法務局員連合で公権力を濫用して重加税負担を強要されることは堪へられません。

豪華な町舎数々の公共施設を見上げるたびに、上告人の老婆には弱肉強食の世の中が現実のようで空しく悲しくなります。

上告人は残された人生を大事にしたいと思ひます。非課税が上告人には相当と思はれますので附属書類を添付して上告を申立てます。

以上

(添付書類省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例